「パピヨン鉄子物語 その16」
酔っ払いの父と鉄の脱走事件
———————————-
(当時の父の日記より)
吐血して命の危機があった鉄であったが
なんとか回復して元気になった。
そして調教の先生の指導もほとんど終わり、噛み癖はかなりおさまり
私の言うことも良く聞くようになっていた。
心配した脱毛も、少しずつ良くなり気がつくとふさふさの鉄に戻っていた。
そんなある日、鉄の散歩にバスの通る道を横切って畑の中の公園に行った。
車も殆ど通らない場所にある公園には誰も居ず、鉄は気持ち良く遊んでいた。
しかし、私がつい油断して手を緩めてリードを離してしまった。
鉄はしめた!と逃げ出したがブランコの柵にリードが
巻きついて自分で動けなくなったところで捕まった。
かなり私も冷や汗をかいて
この話を長女にしたらこっぴどく叱られた。
しかし、こんなことではすまないことが起きてしまうのである。
実は、私は酔っ払っていて、情けないことに何も覚えていないのだ。
「ほれほれ!ささみじゃー」 父
「わーいわーい」 鉄
(このお気楽な二人にとんでもないことが)
—————————————————————–
(ここから愛子です。)
これは今は、あんなことがあったねと話す過去のことなのですが
まったく冗談じゃない!って事件でした。
そして目撃者は私だけなのです。
2001年晩秋
父はその日、碁の仲間の飲み会があって出かけました。
父はもう昔から酒が過ぎて
たくさんの大変なことを起こしてきました。
お財布をなくし靴もはかないで
家に帰ってきたり。
2次会のスナックで知り合ったという
真っ白スーツのピアノ弾きさんを
深夜に家に連れ帰ったり。
朝起きたら、外国の人がいて
母が朝ごはん食べさせてたり・・・
(父は自分が連れてきたくせに
誰だろう?と朝言っていた)
寝台列車で酔っ払って20万くらい入った財布を
スリに盗まれたり・・・
とにかくお酒でいろんな失敗をしてきました。
飲みだすとべろべろに酔うまでやめられない大酒のみでした。
父が碁の仲間とお酒飲みに行くというので
鉄が一人で寂しいだろうと私は
父の家で鉄と遊んで留守番して待っておりました。
父には「飲みすぎないでよ」と釘を刺しておいたのですが・・・
かなり遅くなって
ひどく酔っ払った父を囲碁の友人3人がタクシーで
連れ帰ってきました。
私はその音で玄関の外に出て
酔っ払ってグダグダの父を抱きかかえていました。
その時、送ってきた一人の人が私の横を通って
玄関を勝手に開けて、
気を利かせて父を中に運ぶため
廊下の鉄が逃げないようにしているゲートを
外してしまったようなのです。
(鉄が家の中でフリーでいても逃げないように
2重にガードしていました、
板はダンボールで抑えて固定して人間はこの板をまたいで
次のゲートを開けて玄関に行っていました。)
そのとき、父を玄関の外で
抱きかかえている私の横を、白いものが飛び出していきました。
それはリードもつけてない鉄でした!!
\(◎o◎)/!
私は父をそこの地面に座らせて、鉄を追いかけました。
暗い中、すごい勢いで走る鉄。
とても興奮してしまって、つかまるもんじゃあありません。
そのうち、車が来て、私は両手を広げて車を止める始末。
呼ぶと、余計に喜んで逃げました。
家の前は車は少なく徐行していますが、一本先を曲がると大通り。
びゅんびゅん車が走っています。
そっちへ行ったらもう駄目でした。
自宅にいる主人に助けを呼ぶにも携帯は父の家の中だったし
取りに行ったら鉄を見失ってしまう。
車を何台も止めて、鉄を追いかける私。
運転手さんに何度も怒鳴られました。
汗だくでもう息も止まりそうでした。
地図の赤線の部分を全速力でぐるぐる回る鉄。
送ってくれた方は皆「犬は戻ってくるから!ほっといて」などと言って
「お父さんを早く家に入れてあげて」と大きい声で私を呼んでいます。
あの鉄が戻ってくるなんて!!!何言ってるの!
そしてトラックが向こうから1台やってきました。
「わーーもうだめだー」と思った瞬間、トラックは止まり
運転手さんが降りてきて、なんと一緒に鉄が大通りに出ないように
家のほうに追い立ててくれました。
そして鉄がまた家の前を全速力で走りぬけようとしたとき
門柱に寄りかかっていた父がドスンと音たてて
道路に転びまして、
酔っ払いですから横になってうだうだ言ってました。
そして、それを遠くから見た鉄が、父の顔をなめようと
すごいスピードで戻ってきたんです!
そこを、もう今しかない!これを逃したら
また向こうに走っていってしまう!と頑張って
父の顔をぺろぺろしてる鉄を
ひっつかまえたのでした。
この瞬間、私は気が抜けて涙がぼろぼろ出ました。
父の友人の酔っ払いのご老人たちは、そんな私をあきれてみてて
「ほらーワンちゃん、ほっといても帰ってきたよ」と言うのでした。
この間、止めた車は十台くらい、時間は20分くらいでしょうか。
ひどい話です。
心臓どきどきして、「てつーーてつーー」って叫びっぱなしだった。
サンダルは片一方脱げて
足は転んでいつの間にかジーパンの膝が破れて血が出ていました。
そしてお世話になったトラックの運転手さんは、いつの間にかいなくて
お礼もいえませんでした。
あの運転手さんいなかったらどうなっていたのでしょう・・・
その後、父のお友達には帰っていただきましたが
皆さん高齢で私のことを
「犬を追いかけてお父さんを大事にしない娘さん」みたいに
思われて
「おとうさんを大事にしなさいよ」って言われましたーー!!
とほほ・・・・な事件でした。
でも、一番悪いのは
あんなに酔っ払うまで飲んで何も覚えていない父でした。
私は父の酔いが醒めるまでいて
しっかり御灸をすえてやりました。
酔いの醒めた父は私の話を聞いて
びっくりして
目をまん丸にして。
「鉄に怪我はないか?」と聞いて
「お前の膝から血が出とるがどうした?」と聞き
また私を怒らせるのでした。
この日、私が父の家で待っていなければ
とんでもないことになっていたと思うと
今もぞっとします。
それから父が夜出かけるときは
鉄を私の家で預かったり
私がとまりに行くようにしたのでした。
(ここまで愛子)
——————————————————————-
(父の日記の最後にはこう書かれていました。)
この後、酔っ払いの私と、大脱走をしでかした鉄は並んで座って
長女の説教を延々と聞かされたのだった。
さぶろー
—–ランキング参加中。よろしくお願いします——-
にほんブログ村